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能から学ぶ日本の歴史・文化 NO.1

能は芸能として鑑賞することはもちろん、能の演目を深く掘り下げることで日本の歴史・文化を学ぶ機会ともなります。

第1回目は『菊慈童』を掘り下げます。

場面 中国/レッケン山

まずは太平記について考えてみたいと思います。

鎌倉幕府が滅んだのち、日本では激しい戦乱が続きます。この混乱の時代のなか、様々な歴史書や軍記物語(戦を題材に、実在の武士の活躍を描いた物語)が作られました。なかでも特に壮大なスケールで、96代「後醍醐天皇」の倒幕計画から、室町幕府3代将軍「足利義満」が登場するまでの約50年間の動乱を描いた作品が「太平記」です。

菊慈童の話は『太平記』巻第十三・龍馬進奏事に基づいています。

日本の南北朝時代、後醍醐天皇のもとへ駿馬が献上されたことから物語がはじまる。


 「その故は、周の穆王(ぼくおう)の時……」
穆王の時代に8頭の天馬がやってきました。
穆王はこれらの馬に乗り、どんな辺境でも世界の果てまでも駆けまわります。あるとき、西方へと馬を進め、中天竺でお釈迦様に八句の偈を授かることができました。その穆王の寵愛していた慈童が誤って帝の枕をまたいでしまい配流になってしまいます。レッケン山といえば帝都を離れること三百里、この山に足を踏み入れたもので帰ってきたものはいないといわれる辺境の地です。穆王はそんな所へ慈童を送るのを哀れに思い、お釈迦様から授かった八句の偈のうち、二句をそっと伝授します。

その時、彭祖と改名

この言い伝えを元に、これは穆王の天馬の功徳であり、駿馬がやってきたのは吉兆ですというお話です。

あらすじ

中国、魏の文帝の治世に、酈縣山(れっけんざん/てっけんざん)の麓から霊水が湧き出たため、その源流を探るべく、勅使一行が派遣されました。勅使は山中に一軒の庵を見つけます。周辺を散策して様子を窺っていると、庵から、一人の風変わりな少年が現れました。勅使が怪しみ名を尋ねると、少年は、自分は慈童という者で、周の穆王(ぼくおう)に仕えたと教えます。周の穆王と言えば、七百年もの昔の時代です。勅使がますます怪しんで、化け物だろうと問い詰めると、慈童は、皇帝より直筆の二句(四句)の偈(経典の言葉)が入った枕を賜ったと言い、それを証拠として見せました。勅使もその有難さに感銘を受け、二人でその言葉を唱え味わうのでした。慈童は、自分が二句(四句)の偈を菊の葉に写したところ、そこに結ぶ露が不老不死の霊水となり、それを飲み続けたから七百歳にもなったのだと語り、喜びの楽を舞います。慈童は、その露の滴りが谷に淵を作り、霊水が湧いていると述べ、勅使らとともに霊水を酒として酌み交わします。そして帝に長寿を捧げ、末永い繁栄を祈念して、慈童は山中の仙家に帰っていきました。

穆王が慈童を送るのを哀れに思い、お釈迦様から授かった八句の偈のうち、二句をそっと伝授します。

能の中では勅使がその2句を唱えるシーンがあります。

ではその八句について考えていきたいと思います。

この八句というのは法華経の観音経のことです。

法華経とは
お釈迦さまの教え(言葉)をまとめた「お経」の数は、「8万4千」といわれています。
その中でも、日蓮宗が一番大切にしている教えが「妙法蓮華経(以下、法華経)」です。
法華経はお釈迦様の晩年8年間で説かれた教えであり、お釈迦様の集大成の教えです。
その内容は28章に分かれており、あらゆる仏教のエッセンスが凝縮されております。

観音経(観世音菩薩普門品第二五)・・・観音菩薩を讃える詩句
具一切功徳(ぐいっさいくどく)
慈眼視衆生(じげんしゅじょうじゅ)
福聚海無量(ふきゅじゅかいむりょう)
是故応頂礼(ぜこおうちょうらい)

中国にはこのような説話は存在しません。
穆王については『穆天子伝』『竹書紀年』等で西王母と出会った話が残っているが、寵童の存在には触れられていない。彭祖の名は『列仙伝』『神仙伝』に見られるが、穆王、菊花には無関係であり、殷の大夫であった長寿者が仙人になった話である。その年齢は800歳とも767歳ともいわれている。レッケン山については『荊州記』に「南陽県北八里有菊水」とあり、又、『風俗通義』によると河南省南陽の甘谷に流れる水は菊の慈液を含み、その水を飲んだ住民には百歳を超える者が多かったという言い伝えがあります。
これらの説話が別々に日本に伝わり、結びつき脚色されて行く中で、慈童という存在が創作されていったと考えられます。
そしてのちに謡曲の題材として採り入れられました。

菊慈童を通して太平記と法華経について考えることができました。

毎年12月第4日曜日に開催されているクリスマス能(大濠能楽堂/福岡)

今年の演目は『菊慈童』です。

是非この機会にご覧ください。

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